ヒヨドリよ、打ち明けたいことがある2021年02月11日 16時20分

 室見川沿いの道を歩いていると、桜の枝先にヒヨドリが6、7羽ほど止まっていた。
 彼らが大好きな満開の桜まで、あとひと月半ほど。冬場だから、エサに困っているのかもしれないとまわりを見たら、すぐ近くの畑に白菜が列になって植えられていた。
 そうか、ヒヨドリは白菜も食べるのだった。半分に切ったスイカの赤い果肉をスプーンですくい取るように、ヒヨドリは白菜の芯のところをきれいにえぐり取って食べる。残された外側の葉っぱはインスタントラーメンのカップのようになる。少なくとも、このあたりでは食べものには困っていないようである。
 小学生のころ、ヒヨドリを獲ってみたくて、家の近くの雑木林の中にワナを仕掛けたことがある。
 動機は、母方の叔父が「ヒヨドリは頭が悪くて、簡単にワナにかかる。子どものころ、よくつかまえて、焼いて食ったものだ。あれはうまい鳥だ」と話しているのを聞いたから。ぼくもやってみようとおもったのだ。
 ワナの作り方は父から教えてもらっていた。まずバネとなる背丈の低い竹や木の枝があって、野鳥が来そうな場所を選ぶ。そして、その竹や木の枝にタコ糸を結びつけて、左右に伸ばした2本の糸の先のそれぞれに、10センチほどの細い棒きれの両端を結ぶ。
 次に地面に太い棒を軽く固定して、先ほどの細い棒をその下にくぐらせて上に持ってくる。太い棒はガッチリ動かないように固定する。
 それからもう1本の糸を同じ竹か枝の、同じところに結んで、地面から4~6センチほど上まで垂らして、その先にカギ形になっている細く短い枝を……、
 ああ、こうして書くよりも、作るところを見てもらう方がわかりやすい。
 ぼくらの世代は野鳥を獲るワナの作り方も、エサとなる木の実のことも、カニや魚を突く銛(もり)の作り方も、そして自転車のパンク修理まで、大人や近所のお兄さんがやっているところを見ながら覚えたものだ。
 初めて自分ひとりの力で、ここぞという場所にワナを仕掛けたときは、胸がどきどきした。ヒヨドリがかかっていたら、糸を結んだ枝のバネの力で、上と下の棒の間に挟まれているはずである。
 翌日も、その翌日も、何度も仕掛けた場所に行ってみた。
 しかし、ヒヨドリがやってきた形跡はどこにもなかった。かかってくれと期待する一方で、かからないでくれ、という気持ちも強かった。
 そこで、さらなる研究と技術開発をしなかったから、ぼくは焼いたヒヨドリの姿も、おいしさも知らない。いまでもじっと見るだけである。