アビスパ福岡、J1開幕戦の朝2021年02月28日 11時42分

 日曜日だというのに、カミさんはいつものように朝の5時過ぎに起きて、ひと通りの家事をすませると、早々と出かけて行った。
 今日は待ちに待ったアビスパ福岡のJI開幕戦。選手のサイン入りのユニフォームを着て、ネイビーブルーの手提げには、タオルマフラー、ザブトン、双眼鏡、ラジオ、弁当、菓子、茶、コーヒーその他もろもろを入れて、まるで子どもの遠足である。
 対戦チームは強敵の名古屋グランパス。2017年のJ1昇格プレーオフでは、0-0で引き分けて、ぼくらが失意のどん底に沈んだときの因縁の相手だ。あの試合は、どちらも決定機を逃した大接戦だったが、最後のところでウェリントンがきれいにヘディングシュートを決めた。
 ところが、判定はオフサイド。
 そのシーンのスロービデオを見て、ぼくたち夫婦は「オフサイドじゃない!」と抗議の声をあげた。ウェリントンが動き出す前に、相手選手の靴がゴール寄りに残っていたじゃないか。
 なのに、オフサイドの旗が。あれでアビスパの昇格が消えたのだ。
 サッカーの試合では、あきらかな誤判定が起きる。同じく2017年のシーズンでは、どこのチームとの対戦だったか、ウェリントンの蹴ったボールがはっきりゴールの白線を越えて、ゴールマウスの中に転がっていた。ボールの動きが拡大されたスローの再生映像でも、しっかり確認できた。それでもノーゴール、という判定は変わらなかった。
 あの得点が認められていれば、アビスパは文句なしに自動昇格だった。そういう悔しい思いが募り積もっていたから、よけいにあのときのグランパス戦の判定が忘れられない。
 書いているうちに、だんだん熱くなってきた。
 以前のカミさんはサッカーにはまるっきり興味がなかった。サッカーよりも、プロ野球のホークスファンだった。
 ところが、初めてアビスパの試合を見て、ほとんど馴染みのなかったサッカーの認識が一変したようだった。
 だらだらと動いて、いちいちタイムが入る野球とは、選手たちのプレーのスピードがまるっきり違う。45分間の前後半を、走って、蹴って、攻めと守りがめまぐるしく入れ替わる。
 組織の連動と個人技の激しい応酬が火花を散らす。ひとつ一つのプレーが次の瞬間には何が起きるかわからないという期待感と恐怖につながっていて、いつ点が入るかわからないから、トイレに行くヒマもない。得点が入るとベンチの選手も、サポーターもいっせいに歓声をあげて立ち上がる。そのときのうれしさと言ったら…。
 試合終了の笛と同時に、ピッチの上にぶっ倒れる選手たち。そして勝っても負けても、盛大な温かい拍手をおくるサポーターたち。
 目の前で繰り広げられる熱いシーンが、カミさんに「アビスパを応援するからね」という新しい生きがいをもたらしたのである。
 いまではカミさんのスマホのケースも、キーホルダーも、定期入れも、みんなアビスパの青いデザイン一色になってしまった。
 先日のカミさんの誕生日、ふたりの息子からのプレセントは、アビスパのホーム戦の年間観戦パスだった。彼女の契約社員としての安い手取りでは、ほしくてもかなりの勇気の要る出費である。
 「お父さんは男同士だから、何をプレゼントしたらよろこぶかわかるけど、お母さんは女やけん、よくわからんちゃんね」
 そう言っていた兄と弟は、母親のほしいものがちゃんとわかっていたのである。日ごろから、わが家の母子は仲がいい。お前たち、いいことやるね、とぼくもうれしくなった。

 出かける前のカミさんに、「今日の試合の予想は?」と聞いたら、間髪を入れずに「1-0でアビスパの勝ち」というご託宣だった。
 試合開始は13:00。相手は優勝候補の一角で、戦力もパワーアップしていて、しかも開幕戦は負け知らずという。こちらの長谷部監督もこれまでの開幕戦は無敗である。
 どうなることやらと落ち着かない気持ちで、こんなことを書いている。

■結果発表 1-2でアビスパの負け。アビスパの得点は相手選手のオウンゴール。結果以上に、個々の技術も、組織力も、スピードでも相手が上だった。この敗戦を糧にして、チーム力が上がっていくことを期待しよう。

■写真は、去年の宮崎市の生目の杜運動公園で行われたアビスパ福岡の練習光景。まだコロナの非常事態宣言の発出前で、長谷部監督の具体的で、細かい指示が印象的だった。すぐ近くではホークスのキャンプも。アビスパとは別世界で、大勢のファンがいた。