観察するオモシロサ2021年04月03日 11時48分

 道ばたのあちこちに野草のスミレの花が咲いている。こぼれダネが散らばったのだろう、スミレたちの小さな花畑ができていた。濃い紫色もあれば、うすいのもある。花の形も同じように見えて、みな違う。こうやって寄り添うにして咲くのも、人間と変わらないな。
 目に映るモノを写真で切り取っていると、観察という行為のおもしろさに気づかされる。
 ずいぶん前の話だが、ある制作会社から福岡・天神の冊子をつくりたい、ついては何かユニークな切り口はないかという相談があった。 
 そんな注文なら、おやすい御用である。さっそく、カメラをぶら下げて(そのときはまだスマホがかったので)、「天神の動物」を仮のテーマにして、街に出た。
 こういうときに、テーマを絞って観察するかどうかで、結果は大きく変わってくる。「××を探す」というアンテナを立てていると、向こうの方から情報は飛び込んでくるものだ。
 地面を観るとマンホールの蓋に、ビルに目をやると企業のロゴマークに、視線を上げると街灯に、いろんな動物がいた。そこで、ぼくは「天神は動物園」という企画を提案して、冊子の特集ページをかざったことがある。
 ちょっと専門的なことを言うと、あるテーマの「のぼり旗」を立てる。その「のぼり旗」に関連する情報を集める。すると、そのテーマの特集や本ができる。これが「編集」の考え方の基本である。
 たとえば100人の人がいて、これを整理しろと言われたときにも、編集のノウハウが役に立つ。「背の低い順に」、「50音順に」、「出身地別に」、「兄弟の人数別に」、「既婚者と未婚者別に」など、いくらでも整理する方法はある。そして、この編集の技術と観察を組み合わせるとマーケティングのコツもわかってくる。
 ある狭いエリアの住民たちの暮らしぶりを調べたいのなら、最寄りのスーパーに入るのもひとつの有効な手段になる。
 そこでの「のぼり旗」は高級食材。「観察」するのは、肉売り場の牛肉である。和牛の高額品の品ぞろえはどうか。それをチェックするだけでも、周辺の人々の食費にかける支出について、ある程度の判断がつく。
 停まっている車も観察の対象になる。ここでの「のぼり旗」は高級車。軽の汚れた中古車ばかりが停まっているスーパーには、まず高級な牛肉は並んでいないものだ。
 エリア調査の専門家によれば、車でざっとまわりを走って、窓辺に干してある洗濯物を見るだけで、その地域の人々の世帯構造や所得のおおよその見当がつくという。いわゆる「土手観(ドテカン)」というやつだ。ある大手外食企業の出店計画の担当者は、地名を聞くだけで、瞬時に売上を予測していた。
 かたい話はこの辺にして、私見だが、観察力の鋭さでは、女性の方が男性よりもはるかに上手だとおもう。
 女性社員たちが職場の男たちの身に着けている背広やネクタイ、靴、さらには髪形からクセ、人柄まで観察して、男性の魅力度をああだ、こうだと評定する。ああやって、日々、観察力を鍛えあげているのだ。そんな彼女たちにいったん嫌われたら、もうオシマイである。
 ところが、ぼくもそうだが、男どもはそういう女性たちの眼力に気づいていない。そんなことよりも、ぼくらの世代は「男は中身で勝負」なんて言いだしかねない。
 スミレの花の話から思わぬ方向に脱線したが、観察とマーケティングのノウハウには共通するところが多い。だから、これからますます女性たちの活躍の場は広がっていくとおもう。
 ぶらりと散歩にでるとき、ひところはやった「路上観察学会」のように、ちょっと立ち止まって、スマホで写真を撮るのは、案外、ボケ防止になるかもしれない。