「社会全体」で考える問題か ― 2024年12月02日 16時48分

先日、この団地で殺人事件が起きた。それはいかにも時代の世相を反映していた。
事件の概要は、70代の父親の首を同居中の40代の息子が何らかの方法で圧迫し、窒息死させた疑いがあるというもの。妻に先立たれて、病院通いをしていた老人と未婚、無職、中年の息子のふたり暮らしの終止符が親殺しだった。自宅での遺体発見から数日後に、姿をくらませていた息子は逮捕された。
ぼくはこの親子がいたことも知らない。事件の報道は所轄の警察発表を記事にしたものだから、簡単な要点だけで、破局に至るまでの親子のあいだの抜き差しならない事情もまったくわからない。まして理性を失ったときの息子の激情と父親の気持ちは知る由もない。
事件が報道された翌日の午前中、カミさんと団地のなかを歩いていたら、細めのスーツをぴしっと着こなしたサラリーマン風の若い男に呼び止められた。黒い鞄を提げていたので、てっきりどこかの営業マンかとおもった。
ところが、本人が明かした身分は地元のテレビ局の社員だった。あの親子のことを訊いてまわっているところで、午後からのワイドショーで取り上げるという。
質問されるよりも、逆に教えてもらいたいくらいの気持ちだったが、ふたことみこと話をして、記者の経験がまるで乏しいことがわかった。感じのいい青年で、見るに見かねて、彼が苦労している取材の目のつけどころや糸口をいくつかアドバイスした。
だが、若い彼も現場を歩きながら、うすうす気がついていたと思う。このていどの取材では、いや、どんなに時間をかけても、いちばん知りたい当事者の心情はわからないことを。ぼくもいろんな事件を取材したけれど、いまだにそのときのもやもやした感情を引きずったままだ。
話に出たワイドショーは見ていないが、今回と同じく現代社会を象徴する事件を採り上げたニュース番組やワイドショーで、がっかりさせられることがよくある。
キャスターが最後に読み上げる、あの決まり文句はなんとかならないものか。気に食わないけれど、ボケはじめた頭にすっかり刷り込まれてしまった。
「この問題は、社会全体で考えなければいけないことだと思います」
はい、その答えは100点満点です。
でも、そう聞くたびに何かがひっかかって、腹立たしくなる。
そうやって便利な言葉で片づけて、体(てい)よく逃げているのではないか。そのとたん、テレビを見ている人もなんとなく同調してしまい、この件はこれでオシマイにしてしまうのではないか。
同じ団地で暮らしている70代のぼくは、記者をしていたころと同じように、またひとつ「宿題」を背負ったような心持ちになっている。
■すぐ近くに室見川があるのも、この団地を選んだ理由のひとつ。河畔のベンチに腰掛けて、目の前にいる冬の渡り鳥のユリカモメやカモの動きをぼんやり眺めているうちに、そうだ、ブログに載せようとスマホで撮影した。
事件の概要は、70代の父親の首を同居中の40代の息子が何らかの方法で圧迫し、窒息死させた疑いがあるというもの。妻に先立たれて、病院通いをしていた老人と未婚、無職、中年の息子のふたり暮らしの終止符が親殺しだった。自宅での遺体発見から数日後に、姿をくらませていた息子は逮捕された。
ぼくはこの親子がいたことも知らない。事件の報道は所轄の警察発表を記事にしたものだから、簡単な要点だけで、破局に至るまでの親子のあいだの抜き差しならない事情もまったくわからない。まして理性を失ったときの息子の激情と父親の気持ちは知る由もない。
事件が報道された翌日の午前中、カミさんと団地のなかを歩いていたら、細めのスーツをぴしっと着こなしたサラリーマン風の若い男に呼び止められた。黒い鞄を提げていたので、てっきりどこかの営業マンかとおもった。
ところが、本人が明かした身分は地元のテレビ局の社員だった。あの親子のことを訊いてまわっているところで、午後からのワイドショーで取り上げるという。
質問されるよりも、逆に教えてもらいたいくらいの気持ちだったが、ふたことみこと話をして、記者の経験がまるで乏しいことがわかった。感じのいい青年で、見るに見かねて、彼が苦労している取材の目のつけどころや糸口をいくつかアドバイスした。
だが、若い彼も現場を歩きながら、うすうす気がついていたと思う。このていどの取材では、いや、どんなに時間をかけても、いちばん知りたい当事者の心情はわからないことを。ぼくもいろんな事件を取材したけれど、いまだにそのときのもやもやした感情を引きずったままだ。
話に出たワイドショーは見ていないが、今回と同じく現代社会を象徴する事件を採り上げたニュース番組やワイドショーで、がっかりさせられることがよくある。
キャスターが最後に読み上げる、あの決まり文句はなんとかならないものか。気に食わないけれど、ボケはじめた頭にすっかり刷り込まれてしまった。
「この問題は、社会全体で考えなければいけないことだと思います」
はい、その答えは100点満点です。
でも、そう聞くたびに何かがひっかかって、腹立たしくなる。
そうやって便利な言葉で片づけて、体(てい)よく逃げているのではないか。そのとたん、テレビを見ている人もなんとなく同調してしまい、この件はこれでオシマイにしてしまうのではないか。
同じ団地で暮らしている70代のぼくは、記者をしていたころと同じように、またひとつ「宿題」を背負ったような心持ちになっている。
■すぐ近くに室見川があるのも、この団地を選んだ理由のひとつ。河畔のベンチに腰掛けて、目の前にいる冬の渡り鳥のユリカモメやカモの動きをぼんやり眺めているうちに、そうだ、ブログに載せようとスマホで撮影した。
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