免疫力を回復しなければ ― 2023年05月24日 16時39分

朝から快晴。五月晴れの明るくて青い空が広がっている。
一昨日は再発防止の抗がん剤点滴の日だった。あれを打つと、からだのなかの白血球の数がぐんと少なくなる。免疫力が落ちるわけだ。
すると、免疫力が落ちたのをこれ幸いとばかりに、からだの奥で眠っている好ましからぬもの、たとえばB型肝炎ウィルスのごく微量な残骸が息を吹き返して、爆発的に増殖することがある。そうなったら助かる人はいないという。
「めったにないことです。ごく希にあります」
化学療法室で抗がん剤の点滴を打たれながら、初めて顔をあわせた若い肝臓の専門医からそう言われた。
彼は外来の患者を待たせたまま、わざわざこのことを話すために来たのだ。血液検査の結果、ぼくは自分でも気がつかないうちに、B型肝炎にかかっていた痕跡があるという。寝耳に水の話だった。
「××さんのように70代の方は、小学校のころ注射針を使いまわしにして、予防接種を受けています」
ああ、あのことか。使いまわしされた針で、B型肝炎ウィルスの感染が広がったという、あの話か。ぼくもそうだったのか。
「何ごともなく時間が経っていますからね。いまの××さんのからだのなかにはB型肝炎ウィルスはゼロです。まったくありません。でも、免疫力が落ちるので、非常に確率は低いけれども、ウィルスの残骸が生き返って、暴れ出すことがあるかもしれません」
(やっと辛いガンから解放されるとおもっているのに、今度はB型肝炎か。もう、いい加減にしてくれよな)
「ですから、血液検査のデータをぼくたち肝臓の担当医も毎回チェックします。もし、異常があれば、すぐに特効薬を打ちます。それで完璧に治りますからね」
ここまで説明を聞いて、やっと安心した。この総合病院は医師たちの連係プレーが徹底していて、たちどころにこんな対応をとってくれる。
それにしても、自分のからだのなかに、あのB型肝炎の「歴史」があったとは。そんなことがあって、少しでも免疫力を回復しなければ、という気になった。
いますぐできる免疫力アップの方法は、歩いて運動すること、お日様に当たること。そんなわけで、朝の8時前に室見川へ出た。
天気は上々で、風もない。水はきれいだ。川底の砂も小石もよく見える。
そろそろ登ってきたかな、と目をこらすと、小さな銀色の刃がギラッ、ギラッと光っている。アユの子の群れが浅い流れのなかでうねりあっていた。
少し下流には真っ黒なカワウがいた。潜っては頭を出し、また潜っては頭を出しながら、上流へ、下流へと忙しい。隣にいるのは、水中に潜れない真っ白なコサギ。カワウとつかず離れずにいるのは、カワウが咥えそこなったおこぼれの魚でも狙っているのだろうか。
実はここ数日、井伏鱒二の随筆『釣り宿』の文章をノートに写している。そのなかにアユやハヤがよく出てくる。
写しながら、そうか、井伏の時代(戦前の話)の川はすごく豊かで、アユもいっぱいいたんだと思い当たった。「(隠居は)夕方までに百ぴきは缺かしたことがない」、「この人は一日に百ぴきの上も揚げていたようだ」などの文章が出てくる。
釣り人を誘う清流は、型のいいアユだらけだったんだ。いまと違って、釣り竿を持っての旅も、川に立ちこんでの釣りも、その原稿を書くのも、おもしろかっただろうな。
室見川の散歩から戻って、ぼくはまた写本を続けた。こんな文章がある。
「鮎の白焼は、肌に小皺が寄るように焼くものだ。先ず、炭火に近づけて、そっと軽く焼く。次に、生焼のところで火から離してじっくり焼き上げる」
(いいね、旨そうだな)
書き写しながら、ぼくはじわじわと免疫力がアップしてきたような心持になる。
一昨日は再発防止の抗がん剤点滴の日だった。あれを打つと、からだのなかの白血球の数がぐんと少なくなる。免疫力が落ちるわけだ。
すると、免疫力が落ちたのをこれ幸いとばかりに、からだの奥で眠っている好ましからぬもの、たとえばB型肝炎ウィルスのごく微量な残骸が息を吹き返して、爆発的に増殖することがある。そうなったら助かる人はいないという。
「めったにないことです。ごく希にあります」
化学療法室で抗がん剤の点滴を打たれながら、初めて顔をあわせた若い肝臓の専門医からそう言われた。
彼は外来の患者を待たせたまま、わざわざこのことを話すために来たのだ。血液検査の結果、ぼくは自分でも気がつかないうちに、B型肝炎にかかっていた痕跡があるという。寝耳に水の話だった。
「××さんのように70代の方は、小学校のころ注射針を使いまわしにして、予防接種を受けています」
ああ、あのことか。使いまわしされた針で、B型肝炎ウィルスの感染が広がったという、あの話か。ぼくもそうだったのか。
「何ごともなく時間が経っていますからね。いまの××さんのからだのなかにはB型肝炎ウィルスはゼロです。まったくありません。でも、免疫力が落ちるので、非常に確率は低いけれども、ウィルスの残骸が生き返って、暴れ出すことがあるかもしれません」
(やっと辛いガンから解放されるとおもっているのに、今度はB型肝炎か。もう、いい加減にしてくれよな)
「ですから、血液検査のデータをぼくたち肝臓の担当医も毎回チェックします。もし、異常があれば、すぐに特効薬を打ちます。それで完璧に治りますからね」
ここまで説明を聞いて、やっと安心した。この総合病院は医師たちの連係プレーが徹底していて、たちどころにこんな対応をとってくれる。
それにしても、自分のからだのなかに、あのB型肝炎の「歴史」があったとは。そんなことがあって、少しでも免疫力を回復しなければ、という気になった。
いますぐできる免疫力アップの方法は、歩いて運動すること、お日様に当たること。そんなわけで、朝の8時前に室見川へ出た。
天気は上々で、風もない。水はきれいだ。川底の砂も小石もよく見える。
そろそろ登ってきたかな、と目をこらすと、小さな銀色の刃がギラッ、ギラッと光っている。アユの子の群れが浅い流れのなかでうねりあっていた。
少し下流には真っ黒なカワウがいた。潜っては頭を出し、また潜っては頭を出しながら、上流へ、下流へと忙しい。隣にいるのは、水中に潜れない真っ白なコサギ。カワウとつかず離れずにいるのは、カワウが咥えそこなったおこぼれの魚でも狙っているのだろうか。
実はここ数日、井伏鱒二の随筆『釣り宿』の文章をノートに写している。そのなかにアユやハヤがよく出てくる。
写しながら、そうか、井伏の時代(戦前の話)の川はすごく豊かで、アユもいっぱいいたんだと思い当たった。「(隠居は)夕方までに百ぴきは缺かしたことがない」、「この人は一日に百ぴきの上も揚げていたようだ」などの文章が出てくる。
釣り人を誘う清流は、型のいいアユだらけだったんだ。いまと違って、釣り竿を持っての旅も、川に立ちこんでの釣りも、その原稿を書くのも、おもしろかっただろうな。
室見川の散歩から戻って、ぼくはまた写本を続けた。こんな文章がある。
「鮎の白焼は、肌に小皺が寄るように焼くものだ。先ず、炭火に近づけて、そっと軽く焼く。次に、生焼のところで火から離してじっくり焼き上げる」
(いいね、旨そうだな)
書き写しながら、ぼくはじわじわと免疫力がアップしてきたような心持になる。
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