北帰行から外れたコガモたち2021年03月29日 10時59分

 花見をした翌土曜日の夜半過ぎ、強い風と激しい雨に打たれて、満開だった桜は、花の飾りをまばらに残すだけになった。もう少し、たのしませてほしかったのだが。
 朝の8時過ぎ、ぶらぶら散歩をしていたら、セメントでかためた側溝の川底にコガモのつがいがいた。そこから5メートルほど離れたところには、頭部の緑色が鮮やかなオスのコガモが一羽。
 毎年この時期になると、北国へ帰りそびれたコガモやマガモが出てくる。どんな事情があったのか知る由もないが、仲間たちがピイー、ピイーと鳴きながら、ひとつのにぎやかな群れのかたまりになって、北帰行の空のかなたに消えていくのを見送ったのだろう。
 こうして残ったもの同士が身を寄せ合っている様子を見るとせつなくなる。井伏鱒二の「屋根の上のサワン」なら、飛んで追いかけていっただろうに。
 それでもカップルで過ごすコガモはまだ幸せそうである。一方、これから生死にかかわる夏場に向けて、苦楽を共にする相手のいないコガモは大丈夫だろうか。
 独り身のオスは、つがいの2羽から一定の距離を保って、邪魔することなく、はなれずにいる。カップルの近くに、孤独なオスがぽつんとひとり。よく見かける光景である。
 野鳥だけではない。ぼくが住んでいる公団住宅にも、同じ境遇の人たちがたくさんいる。カモは若いが、人間の方は中高年ばかりだ。ぼくだって、どうなるかわからない。
 あれは学生時代のころだったか、SウィスキーのテレビCMで、雁が日本海の荒波を渡る物語が紹介されていた。雁は小枝をくわえて空を飛び続け、疲れたらその小枝を海に浮かべて休むという。
 北帰行は、死と隣り合わせなのだ。この地に残る選択をしたコガモたちを見ていると、仲間たちが戻ってくるまで元気でいろよ、と声をかけたくなる。
 あのなつかしいCMを見つけたので、下に添付する。作家の山口瞳や開高健がいて、一世を風靡したサントリー宣伝部のこともおもいだした。
https://www.youtube.com/watch?v=1-B7YWakI38

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