「山ほたる」の季節がやってきた ― 2021年06月01日 09時42分

6月になった。いまごろ高田酒造場(熊本県球磨郡あさぎり町)のまわりでは、たんぼの脇の小川や山あいの渓流にたくさんのホタルが飛んでいることだろう。
ホタルが舞う季節に、高田酒造場から出荷されるのが、手造り球磨焼酎の「山ほたる」である。花酵母を使用した希少な米焼酎で、ロックで飲むといい香りがする。
実は、この「山ほたる」という名前は、ぼくが名づけた。高田酒造場のまわりの自然環境にぴったりとおもった。吟醸酒のような香りとやさしい味わいが特徴で、女性にも飲んでほしかった。だから、すぐに「山ほたる」の名前が浮かんだ。
もう20年ほども前のこと、高田酒造場を応援するために「高田酒造場ファンクラブ」をつくって、何も宣伝していなかった「小さな蔵」の広報活動を買ってでた。それから10年間、パンフレット等の商品説明書づくり、顧客への「蔵元だより」の制作と発送、メディアへ情報発信、ホームページの制作運営から商品開発、仕込み蔵の設計支援まで、いろいろやった。
そのなかの商品のひとつが「山ほたる」である。ネーミングだけではなく、デザインの原案、ラベルの商品説明書きもやらせてもらった。
初めて「山ほたる」を商品化した日の夕刻、蔵元の高田さんとぼくはホタルの名所の「天使の水公園」に行った。そこでは無数のゲンジボタルが黄色い光を点滅しながら、ゆっくりと舞い上がったり、突然、急降下したりして、大きな光の粒子の群れが暗い谷間ではげしく乱舞していた。
そのホタルの光の競演を胸に焼きつけたまま、人吉市内の小料理屋に、蔵から持ってきた花酵母の焼酎を持ち込んで、「これで行こう」と決めたのが「山ほたる」だった。
その花酵母の焼酎をつくるのに、高田さんは4年の歳月がかかった。原酒を割る「割り水」には海抜1,000メートルの山頂近くに湧く石清水を使っている。これも楽な仕事ではない。軽トラックにタンクを積んで、とんでもない山奥の荒れた道をバックで進んで、水を汲むだけでもゆうに1時間半はかかる。
仕込み蔵はこのブログ(1月16日)でも紹介した河上さんが設計してくれた。そこには伝統のカメが埋められていて、その下を地下水が流れている。麹室はこのあたりでとれる特産の石造り。こういう環境も高田酒造場だけの焼酎を育んでいるのだ。
瓶詰めも、ラベルを貼るのも、すべて手作業である。米も上質なものしか使わない。自分のたんぼでは山田錦を栽培しているという徹底ぶりだ。
こういう並外れたこだわりの小さな蔵があるのに、一部の勉強熱心な酒販店を除くと、当時はまったく無名だった。どこの会社でもそうだが、地方には広報のプロがいない。足元にとっておきのニュースがころがっていても、その価値に気がつかないし、どうしていいのか方法もわからない。そもそも宣伝と広報の違いをわかっている人が少ない。
コツコツと広報活動を続けているうちに、広告宣伝嫌いだった高田さんもだんだんその気になったようで、それまで手をつけてこなかった東京の大手百貨店に商品を出した途端、高田酒造場のこだわりの手造り焼酎は評判になった。
高田さんは十二代目。いまは十三代目の娘さんが立派に跡を継いでいる。彼女が小学生のころから、その日がくるのをぼくたちは心待ちに待ちにしていた。そして、役目を終えたファンクラブは数年前に解散した。当時のホームページも閉じた。次は若い世代の出番である。
この季節になると、高田さんのところに、毎月1回、福岡から車で通っていたころが懐かしい。珍しい雉(キジ)や鹿の料理、球磨川の天然アユ、老舗のウナギ屋やそば屋、高級旅館から地元料理の店など、いろんな味をご馳走になった。一緒に高田さんの手造り焼酎を飲みながら、夢を語り合うがたのしかった。商品化する前の長期貯蔵していた原酒も、門外不出のハナタレも飲ませてもらった。本当にお世話になった。
ぼくが名づけた銘柄は「山ほたる」のほかにも、樫樽貯蔵の「遊木(ゆき)」、同じく樫樽貯蔵の「深田蒸留所」、花酵母シリーズの「天の刻(とき)」、「野の刻」、「風の刻」。モチ米焼酎の「もちきり」、そして「逸蔵逸品」、「蔵初音」。ほかにもあったっけ。みんな高田さんと蔵で働く人たち、そしてファンクラブの仲間たちとの共同作品である。
高田酒造場は昨年、人吉球磨地方を襲った水害被害に遭った。いまはコロナ禍の下にある。遠慮して、しばらく声を聞いていないが、新開発した和製ジンも好評という。
彼とは、日本一の蔵になろうと約束した。高田さんのことも、高田酒造場のことも、書き始めるときりがない。ぼくの初恋の人も、学生時代の友や先輩、後輩たち、仕事関係の人も、たくさんの人たちが「小さな蔵」の商品を買ってくれた。
カミさんには、俺が死んだら、棺桶に「山ほたる」と「遊木」を入れてくれと頼んでいる。
ホタルが舞う季節に、高田酒造場から出荷されるのが、手造り球磨焼酎の「山ほたる」である。花酵母を使用した希少な米焼酎で、ロックで飲むといい香りがする。
実は、この「山ほたる」という名前は、ぼくが名づけた。高田酒造場のまわりの自然環境にぴったりとおもった。吟醸酒のような香りとやさしい味わいが特徴で、女性にも飲んでほしかった。だから、すぐに「山ほたる」の名前が浮かんだ。
もう20年ほども前のこと、高田酒造場を応援するために「高田酒造場ファンクラブ」をつくって、何も宣伝していなかった「小さな蔵」の広報活動を買ってでた。それから10年間、パンフレット等の商品説明書づくり、顧客への「蔵元だより」の制作と発送、メディアへ情報発信、ホームページの制作運営から商品開発、仕込み蔵の設計支援まで、いろいろやった。
そのなかの商品のひとつが「山ほたる」である。ネーミングだけではなく、デザインの原案、ラベルの商品説明書きもやらせてもらった。
初めて「山ほたる」を商品化した日の夕刻、蔵元の高田さんとぼくはホタルの名所の「天使の水公園」に行った。そこでは無数のゲンジボタルが黄色い光を点滅しながら、ゆっくりと舞い上がったり、突然、急降下したりして、大きな光の粒子の群れが暗い谷間ではげしく乱舞していた。
そのホタルの光の競演を胸に焼きつけたまま、人吉市内の小料理屋に、蔵から持ってきた花酵母の焼酎を持ち込んで、「これで行こう」と決めたのが「山ほたる」だった。
その花酵母の焼酎をつくるのに、高田さんは4年の歳月がかかった。原酒を割る「割り水」には海抜1,000メートルの山頂近くに湧く石清水を使っている。これも楽な仕事ではない。軽トラックにタンクを積んで、とんでもない山奥の荒れた道をバックで進んで、水を汲むだけでもゆうに1時間半はかかる。
仕込み蔵はこのブログ(1月16日)でも紹介した河上さんが設計してくれた。そこには伝統のカメが埋められていて、その下を地下水が流れている。麹室はこのあたりでとれる特産の石造り。こういう環境も高田酒造場だけの焼酎を育んでいるのだ。
瓶詰めも、ラベルを貼るのも、すべて手作業である。米も上質なものしか使わない。自分のたんぼでは山田錦を栽培しているという徹底ぶりだ。
こういう並外れたこだわりの小さな蔵があるのに、一部の勉強熱心な酒販店を除くと、当時はまったく無名だった。どこの会社でもそうだが、地方には広報のプロがいない。足元にとっておきのニュースがころがっていても、その価値に気がつかないし、どうしていいのか方法もわからない。そもそも宣伝と広報の違いをわかっている人が少ない。
コツコツと広報活動を続けているうちに、広告宣伝嫌いだった高田さんもだんだんその気になったようで、それまで手をつけてこなかった東京の大手百貨店に商品を出した途端、高田酒造場のこだわりの手造り焼酎は評判になった。
高田さんは十二代目。いまは十三代目の娘さんが立派に跡を継いでいる。彼女が小学生のころから、その日がくるのをぼくたちは心待ちに待ちにしていた。そして、役目を終えたファンクラブは数年前に解散した。当時のホームページも閉じた。次は若い世代の出番である。
この季節になると、高田さんのところに、毎月1回、福岡から車で通っていたころが懐かしい。珍しい雉(キジ)や鹿の料理、球磨川の天然アユ、老舗のウナギ屋やそば屋、高級旅館から地元料理の店など、いろんな味をご馳走になった。一緒に高田さんの手造り焼酎を飲みながら、夢を語り合うがたのしかった。商品化する前の長期貯蔵していた原酒も、門外不出のハナタレも飲ませてもらった。本当にお世話になった。
ぼくが名づけた銘柄は「山ほたる」のほかにも、樫樽貯蔵の「遊木(ゆき)」、同じく樫樽貯蔵の「深田蒸留所」、花酵母シリーズの「天の刻(とき)」、「野の刻」、「風の刻」。モチ米焼酎の「もちきり」、そして「逸蔵逸品」、「蔵初音」。ほかにもあったっけ。みんな高田さんと蔵で働く人たち、そしてファンクラブの仲間たちとの共同作品である。
高田酒造場は昨年、人吉球磨地方を襲った水害被害に遭った。いまはコロナ禍の下にある。遠慮して、しばらく声を聞いていないが、新開発した和製ジンも好評という。
彼とは、日本一の蔵になろうと約束した。高田さんのことも、高田酒造場のことも、書き始めるときりがない。ぼくの初恋の人も、学生時代の友や先輩、後輩たち、仕事関係の人も、たくさんの人たちが「小さな蔵」の商品を買ってくれた。
カミさんには、俺が死んだら、棺桶に「山ほたる」と「遊木」を入れてくれと頼んでいる。
コメント
_ 大高典文 ― 2022年01月13日 13時25分
僕も人吉に30年以上のお付き合いをいている洋服屋さんがいます。5件ほどさせて頂き、自宅や集合ビルも被害にあいました。常宿の鮎里ホテルも複の様子がテレビに出ていました。11pmに美人女将さんで出ていた女将も今は旅館組合長でコメントをしていました。30年の重みを感じました。
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