3回目のCT検査も異常なし ― 2024年05月23日 18時41分

3回目のCT検査を受けた。これまでと違うのは、がんの再発を防ぐ化学療法中ではなく、その抗がん剤の点滴が終了してから4か月後の検査だったこと。
つまり、投薬なしのふだんの生活に戻っても、がんの兆候はないかという点を調べたわけだ。退院後に計画された定期的なチェックの一環である。
担当の外科医は大繁盛していて、部屋に呼ばれるまで1時間あまりも待たされた。
「やぁ、しばらくでした。お待たせしてすみません。CT検査も、マーカーも大丈夫ですね。データのどこにも異常はありません。この調子でやっていきましょう」
医者の目も「心配しなくていいですよ」と言っている。いつも以上に大きな声だった。
「よかった。安心しました。ぼくの方はともかくとして、先生はえらく忙しそうだから、からだに気をつけてくださいね」
そう声をかけたら、3、4人いる看護師さんたちが、いっせいにワァーッと笑い声をあげた。
そんな受けを狙った覚えはないのだが、この部屋にはさまざまながんの悩みを抱えた人たちがやってくる。白衣を着た彼女たちは、日々深刻な現実を嫌というほど見聞きしている。
そこに致死率の高いすい臓がんを乗り越えて、予想を上まわる速さで元気になった高齢の患者がやってきた。そして、主治医と親しげに話している様子をみて、いつもの息苦しい緊張感から一瞬、解きはなされたのだろうか。
病院にたのしそうな笑い声は似合わない。けれども、ときどき、いやもっと、もっと、こんなことがあっていい。
それで思い出したことがある。
ぼくの好きな先輩に、脳溢血で倒れて、担ぎ込まれた病院に入院しているとき、車椅子であちこちの病室に顔を出しては、患者や看護師さんを大笑いさせていた人がいる。
「病室は雰囲気が暗かろうが。みんな朝起きてから夜寝るまで、黙りこんだままで話もせんし。あれはからだによくない。こっちまでおかしくなるよ。オレは入院中のみんなと友だちになるようにして、あちこちのベッドまで出かけて、よく話を聞いてやって、励ましたり、冗談を飛ばして笑わせたよ」
入院中の患者のなかで、いちばんの人気ものだったらしい。車椅子が手放せなくなった後遺症の残るからだで、本人はおもしろそうにそう言っていた。
まるで病院版・フーテンの寅さんみたいな一幕である。彼は退院するのも早かった。
病院から帰宅して、カミさんに声をかけた。
「CTも、マーカーも、検査のデータはぜんぶ大丈夫だったよ」
「よかった。安心したね」
「うん。まだ生きていてもいいみたいだ。だからね、きょうはね、ちょいと多めに飲むからね」
晩酌の時間が近づいてきたので、検査の報告はこのへんで終わることにする。
■ことしもベランダの桑の木が実をたくさんつけている。黒く熟れると、とても甘くておいしい。熟しているのをみつけては、その場で口に放り込んでいる。
つまり、投薬なしのふだんの生活に戻っても、がんの兆候はないかという点を調べたわけだ。退院後に計画された定期的なチェックの一環である。
担当の外科医は大繁盛していて、部屋に呼ばれるまで1時間あまりも待たされた。
「やぁ、しばらくでした。お待たせしてすみません。CT検査も、マーカーも大丈夫ですね。データのどこにも異常はありません。この調子でやっていきましょう」
医者の目も「心配しなくていいですよ」と言っている。いつも以上に大きな声だった。
「よかった。安心しました。ぼくの方はともかくとして、先生はえらく忙しそうだから、からだに気をつけてくださいね」
そう声をかけたら、3、4人いる看護師さんたちが、いっせいにワァーッと笑い声をあげた。
そんな受けを狙った覚えはないのだが、この部屋にはさまざまながんの悩みを抱えた人たちがやってくる。白衣を着た彼女たちは、日々深刻な現実を嫌というほど見聞きしている。
そこに致死率の高いすい臓がんを乗り越えて、予想を上まわる速さで元気になった高齢の患者がやってきた。そして、主治医と親しげに話している様子をみて、いつもの息苦しい緊張感から一瞬、解きはなされたのだろうか。
病院にたのしそうな笑い声は似合わない。けれども、ときどき、いやもっと、もっと、こんなことがあっていい。
それで思い出したことがある。
ぼくの好きな先輩に、脳溢血で倒れて、担ぎ込まれた病院に入院しているとき、車椅子であちこちの病室に顔を出しては、患者や看護師さんを大笑いさせていた人がいる。
「病室は雰囲気が暗かろうが。みんな朝起きてから夜寝るまで、黙りこんだままで話もせんし。あれはからだによくない。こっちまでおかしくなるよ。オレは入院中のみんなと友だちになるようにして、あちこちのベッドまで出かけて、よく話を聞いてやって、励ましたり、冗談を飛ばして笑わせたよ」
入院中の患者のなかで、いちばんの人気ものだったらしい。車椅子が手放せなくなった後遺症の残るからだで、本人はおもしろそうにそう言っていた。
まるで病院版・フーテンの寅さんみたいな一幕である。彼は退院するのも早かった。
病院から帰宅して、カミさんに声をかけた。
「CTも、マーカーも、検査のデータはぜんぶ大丈夫だったよ」
「よかった。安心したね」
「うん。まだ生きていてもいいみたいだ。だからね、きょうはね、ちょいと多めに飲むからね」
晩酌の時間が近づいてきたので、検査の報告はこのへんで終わることにする。
■ことしもベランダの桑の木が実をたくさんつけている。黒く熟れると、とても甘くておいしい。熟しているのをみつけては、その場で口に放り込んでいる。
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