高校時代の友と昼飲み2024年05月26日 19時22分

 久しぶりに人波でごった返した街なかに出ると、あれもこれも様子が変わっていて戸惑うことばかりである。
 昨日は数年ぶりに高校の同級生4人が集まって、昼間から飲んだ。
 最初は足まわりのいい博多駅の駅ビル内にある『博多ほろよい通り』でやるつもりだった。立ち飲み屋をはじめ大衆居酒屋が密集していて、JRや地下鉄、バスの時間に合わせて、ひとりでも気軽に一杯やれるので、地元だけではなく遠来の人たちにも人気がある。「博多はいいよなぁ」とよく言われる一角である。
 土曜日とはいえ、真っ昼間だから、がら空きとまではいかなくても、4人ならどこでも座れるだろうと楽観していた。ところが、この日の飲み会をセットしたぼくは、念のためにひと足はやく偵察に行ってみてびっくりした。
 どの店も若い男性や女性客でおおにぎわいだった。店員たちは平日の会社が引けた後のかき入れどきのように動きまわり、注文する声が飛び交って、待っていても席が空くような様子ではない。
「真っ昼間から、酒なんか飲んで」、なんてことは、まるで関係なし。おおげさではなく、「世のなかは変わったなぁ」とおもった。
 助かったのは、2週間前に遠方の客をここに誘って、話もできないほどの喧噪ぶりにうんざりした友がいたこと。彼はちゃんと別の飲み屋の候補を調べてくれていた。
 駅前から信号をいくつかわたって、ぶらぶら歩くこと5分。活きのいい魚料理が売り物の店で、看板には「昼飲みできます」と赤いペンキで書いてある。
 一歩入ると長いカウンター席も、案内された座席の両隣も、若い男女連れが料理の皿をいくつも並べて昼飲みを楽しんでいた。やっぱり、世のなかは変わっていたのである。
 どうやら夜遅くまで飲んで、帰りがおっくうになるよりも、昼間のうちに飲み会をやって、明るいうちに終わる方がからだにも楽でいいということらしい。
 あれれ、その考え方はぼくたちとそっくりではないか。
 でも、待てよ。昼飲みはヒマな年寄りたちの専売特許ではなかったか。若い人たちまでそうなってしまったら、人出の多い街なかで、年金暮らしの人たちは昼飲みできる居酒屋探しに右往左往して、街はずれの片隅に追いやられるかもしれない。
 うーん。可能性はあるな。そんな哀しい映像がふと頭をよぎった。
 さて、ヨイショ!と座ってしまえば、もうこっちのもの。幹事役はS君にお願いして、年がいもなく全員一致で飲み放題コースにした。4人とも飲む気、満々である。
「いまの政治はおかしいよね」
 Y君の出だしのひと言から、パッと火がついた。
 自民党はどうしようもないな。安倍からおかしくなったよな。菅も悪いぞ。岸田にもがっかりした。格差社会になってしまって、もうめちゃくちゃじゃないか。政治家もジャーナリズムも劣化したものだ……。
 聞きながら、やっぱり、政治の話になるとみんな熱くなるなぁ、オレたちの世代だなぁ、とおもった。
 だれひとり、ぼくのがんの話にはふれようとしない。そのことを知ったうえでの飲み会なので、「がんなんか、気にするな。そんな話は止めようや」の無言のメッセージだったのだろう。
 ひとしきり、いまやっていることの話になって、それだけではおもしろくないと感じ始めていたぼくは、覚悟も準備もできていないのに、「オレは小説を書こうとおもっている」とつい口走ってしまった。
「へぇ、どんな小説を?」と訊かれた。
「大きなテーマは叛乱だな。いまの世のなかに反旗を翻す叛乱だ」
 とっさにそう答えて、どうして叛乱などという言葉が出たのか、自分自身が驚いた。盛り上がった勢いで、こんな青っぽいことを言ったのも、あのころのお互いの坊主頭を知っている「ダチ」だからこそ。何年たっても、何を言っても、笑い飛ばしてもらえる仲である。
 4人で約2時間に飲んだ酒の量は、ビールがジョッキ18杯、酎ハイが同じく2杯。
 飲めなくなったものだ。でも、みんなもう1杯や2杯はらくに飲めるぞという顔をしていた。
 そのうち、「またやろうや」とだれかが言いだすに違いあるまい。そのときは人ごみのなかでもいそいそと出かけて行かねば。

■団地のなかには大小のイチョウの木がある。そのほとんどぜんぶが幹から伸びた枝先を切り取られて、すっきり過ぎるほどの立ち姿をしている。
 だが、写真手前の大きなイチョウの木だけは例外で、まるでからだじゅうが毛むくじゃらである。いつか丸ごと散髪されるのだろう。

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