内閣改造の個人的な見どころ2023年09月14日 18時44分

 昨日発足した第2次岸田内閣の顔ぶれを見て、「やっぱりね」と納得しながらも、半面では少なからずがっかりした。
 閣僚人事について、以前のように関心があるわけではない。増えていく一方のこまごまとした大臣ポストの名称も、交替したばかりの閣僚の名前もほとんど覚えていない。たぶん、ぼくだけではあるまいが。それだけ政治家は小粒になったということか。
 「やっぱりね」とおもったのは外務大臣のポストである。林芳正を留任させるかどうかの一点が気になっていた。
 昨今の国際情勢のなかで、外相の役割の重要性は言うまでもないことだ。英語がしゃべれて、経済や安全保障の問題だけではなく、文化の方面にも見識があって、そのうえで世界各国の首脳に顔が売れている、知り合いがたくさんいることも、外相をそつなくこなす必要条件である。理想的には、どこに出しても恥ずかしくない、どんな懸案にも対応できるオールラウンドプレーヤーが求められるわけだ。
 いまのぼくはかなりの″政治音痴″なのだが、林芳正は自民党のなかでも数少ない適任者で、よくやっていたとおもう。
 一部には、岸田首相が同じ宏池会に所属している林を、自分の後継者として育てるために閣外に出して、党務や派閥の要職に就かせるという声がある。
 いかにもそれらしい解説に聞こえる。だが、それは岸田首相の本心だろうか。すでに自民党の主な要職のポストも決まっているのだ。
 ところで内閣改造の見方には常に両面がある。「閣僚として囲い込む」、その反対に「虎を野に放つ」という言葉もある。林前外相はどちらだろうか。
 「政治家は嫉妬の動物です」
 この言葉を教えてくれたのは、中曽根政権で副官房長官に抜擢された故M代議士だった。中曽根が政治資金集めの出版記念パーティーを開いたとき、出席者に配られた都市政策の本は、実は著者・中曽根ではなく、M代議士が書いたものだ。
 将来を嘱望されていた人だった。惜しいことに病死してしまった。
 「政治家は嫉妬の動物」と言えば、宏池会を創設した池田隼人の内閣で、池田の秘書官から内閣官房長官に駆け上がった大平正芳は、だれの目にも池田からの信頼が非常に厚い人物だとおもわれていた。
 ところが、当の大平は「そうじゃない。本当は嫌われていたんだ。最高権力者は力をつけてきて、いつかは自分の座を脅かしそうな人間は腹の底では徹底的に警戒するんだよ」と言ったという。
 この図式は、そのまま岸田首相と林芳正の関係にも当てはまる。
 もうひとつ、今回の内閣改造の焦点のひとつは最大派閥の安倍派の処遇だった。
 安倍の聖地は、晋太郎・晋三親子の地元拠点の下関市である。ここは安倍親子と林義郎・芳正親子が長年、主導権争いを続けてきた因縁の土地として地元ではよく知られている。
 また安部派の議員たちは、中国の習近平政権に対して敵対的な姿勢をとり続けている。一方、親子2代が日中友好議員連盟の会長を務めた林芳正は親中国派の代表格のようなものだ。
 安倍元首相が殺害されて、その後継者はほぼ無名の市議会議員になった。次の総選挙では定数の見直しの結果、林と安倍の後継者は同じ選挙区に統合される。
 いよいよ決着のときを迎えるわけだが、いまでは両者の確執の争いは林の方が圧倒している。安倍派はなんとかして巻き返したいだろう。
 ここでも「政治家は嫉妬の動物」という言葉が浮かぶ。同じ地盤のライバルは陽の当たる大臣職で、こちらは無冠というのは、政治家として耐えられない屈辱なのだ。内閣改造直後の議員会館で、「なんであんな奴が大臣なんだ」と悔しがる様子を何度もみてきた。
 岸田首相が林芳正を主要閣僚ポストから外したことは、最大派閥の安倍派の″しゃくのタネ″をひとつ取り除いたことになる。
 ここまで書いてきたことは、うがち過ぎで、マト外れなのかもしれない。でも、ぼくの頭のなかでは無理なく、一直線につながっている。
 週刊誌の記者時代には、内閣改造が近づくと全閣僚の顔ぶれを予想する特集は定番の企画だった。編集長やデスク、先輩記者たちがどうしてそれらの候補者を選ぶのか、横にいるだけでも勉強になったものだ。
 ときはめぐって、上川陽子・新外相の出番がやってきた。こんな国際情勢だからこそ、この人がいてよかったというところを、ぜひとも、みせてもらいたい。

■写真は近くの道路脇にある小さな用水路。白く塗りかためたコンクリートから1本のカンナが若葉を伸ばしている。あの硬いコンクリートの被膜をどうやって突き破ったのだろうか。その生命力のたくましさに、しばしのあいだ見入ってしまった。

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