ネコはこたつで丸くなる ― 2024年01月23日 14時39分

寒い。朝から気温は1、2度しかない。ときおり白い雪が舞い落ちてくる。
電気こたつからはなれずに、ぼーっとしていたら、「ネ~コはこたつで丸くなる」の子どもたちの歌声が頭のなかで聞こえてきた。
働いている人たちや学校に通う生徒たちからみれば、「年寄りはなにもしないで、ああやって家のなかで一日中ごろごろしているんだ」とおもわれかねない。
きっとそうだ、そうに決まっていると気がついて、こりゃあ、いかんと跳ね起きた。
朝食後の食器を洗って、冷たい水に手を濡らしながら風呂掃除をして、かたときも休まずに掃除機をかけた。それから今夜の献立は鶏肉のクリームシチューに決めて、必要な材料をメモ書きして、小雪が舞うなか、リュックを背に、歩いて買い物に行った。
まだ昼どき前の時刻、いつも行くスーパーは年寄りだらけである。その人たちの顔や動きをみていると、「時間潰し」としか言いようがない。きびきびした活きのいい人はどこにもいない。朱に交われば赤くなるではないけれど、とたんにこちらも同調してしまい、気持ちも動きもたちまちスローダウンしてしまった。
買い物のリストを持っているのに、買わなくてもいい安売りの商品を探し始めたのは、亡くなった親父と同じで、持って生まれた性分だろうか。すぐ横にいた年寄り男性の買い物かごには、割引の値札がついた菓子パンや饅頭、生ラーメンの袋などがごちゃごちゃ入っている。賞味期限が間近だろうに、あんなに買って、ぜんぶ食べきれるのだろうかと余計な心配をしてしまった。
以前、ぼくたちの住まいがある団地の棟の1階に、独り暮らしのおばあちゃんがいた。このおばあちゃん、言葉遣いがとても上品な人で、腰は少し曲がっていて、脚も弱くて、続けて50メートルも歩けない。あちこちに腰かけて、ゆっくり休んではまた歩きだす。自宅から少しはなれたスーパーにはタクシーで往復していた。
彼女の愉しみは買い物で、1回の買う量も、品数も、半端ではなかった。タクシーの運転手さんは荷物運びの役目があって、大きな買い物袋を提げては車と玄関のドアを最低でも2往復していた。そんな場面が毎日のように午前中と午後の2回もあるのだ。
夏が近づくとおばあちゃんの部屋から異様な臭いが流れてきた。大きなハエがあたりを飛びまわるようになった。心配して、部屋の中に入ったご近所さんの目撃談によれば、よくテレビに出てくるゴミ屋敷とそっくりの状態だったという。
ある日、おばあちゃんのところに身内らしい男性と引っ越しのトラックがやってきて、何十個ものゴミ袋と一緒に家財道具をぜんぶ持ち運んで行った。そして、あのやさしいおばあちゃんは二度とぼくたちの前に現れることはなかった。
いまでは想像するしかないが、彼女はからだが不自由でも、「ネコはこたつで丸くなる」を嫌った人だったとおもう。毎日あれだけの数と量の買い物をしていたのは、過ぎた日の家庭がにぎやかだったころを懐かしんでいたのだろうか…。
あれっ、ちょっと待てよ。さっきからこんなことを書いているぼくは、よっぽど暇な年寄りだとおもわれるんだろうな。
■雪がちらつくなか、梅の花が咲いている。あと十日あまりもすれば立春である。
電気こたつからはなれずに、ぼーっとしていたら、「ネ~コはこたつで丸くなる」の子どもたちの歌声が頭のなかで聞こえてきた。
働いている人たちや学校に通う生徒たちからみれば、「年寄りはなにもしないで、ああやって家のなかで一日中ごろごろしているんだ」とおもわれかねない。
きっとそうだ、そうに決まっていると気がついて、こりゃあ、いかんと跳ね起きた。
朝食後の食器を洗って、冷たい水に手を濡らしながら風呂掃除をして、かたときも休まずに掃除機をかけた。それから今夜の献立は鶏肉のクリームシチューに決めて、必要な材料をメモ書きして、小雪が舞うなか、リュックを背に、歩いて買い物に行った。
まだ昼どき前の時刻、いつも行くスーパーは年寄りだらけである。その人たちの顔や動きをみていると、「時間潰し」としか言いようがない。きびきびした活きのいい人はどこにもいない。朱に交われば赤くなるではないけれど、とたんにこちらも同調してしまい、気持ちも動きもたちまちスローダウンしてしまった。
買い物のリストを持っているのに、買わなくてもいい安売りの商品を探し始めたのは、亡くなった親父と同じで、持って生まれた性分だろうか。すぐ横にいた年寄り男性の買い物かごには、割引の値札がついた菓子パンや饅頭、生ラーメンの袋などがごちゃごちゃ入っている。賞味期限が間近だろうに、あんなに買って、ぜんぶ食べきれるのだろうかと余計な心配をしてしまった。
以前、ぼくたちの住まいがある団地の棟の1階に、独り暮らしのおばあちゃんがいた。このおばあちゃん、言葉遣いがとても上品な人で、腰は少し曲がっていて、脚も弱くて、続けて50メートルも歩けない。あちこちに腰かけて、ゆっくり休んではまた歩きだす。自宅から少しはなれたスーパーにはタクシーで往復していた。
彼女の愉しみは買い物で、1回の買う量も、品数も、半端ではなかった。タクシーの運転手さんは荷物運びの役目があって、大きな買い物袋を提げては車と玄関のドアを最低でも2往復していた。そんな場面が毎日のように午前中と午後の2回もあるのだ。
夏が近づくとおばあちゃんの部屋から異様な臭いが流れてきた。大きなハエがあたりを飛びまわるようになった。心配して、部屋の中に入ったご近所さんの目撃談によれば、よくテレビに出てくるゴミ屋敷とそっくりの状態だったという。
ある日、おばあちゃんのところに身内らしい男性と引っ越しのトラックがやってきて、何十個ものゴミ袋と一緒に家財道具をぜんぶ持ち運んで行った。そして、あのやさしいおばあちゃんは二度とぼくたちの前に現れることはなかった。
いまでは想像するしかないが、彼女はからだが不自由でも、「ネコはこたつで丸くなる」を嫌った人だったとおもう。毎日あれだけの数と量の買い物をしていたのは、過ぎた日の家庭がにぎやかだったころを懐かしんでいたのだろうか…。
あれっ、ちょっと待てよ。さっきからこんなことを書いているぼくは、よっぽど暇な年寄りだとおもわれるんだろうな。
■雪がちらつくなか、梅の花が咲いている。あと十日あまりもすれば立春である。
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