カミさんの探索能力2022年06月18日 17時43分

「あったよ、こんなところに。よかったね」
 朝の7時すぎ。布団に寝ころがっていたところを、カミさんの声で起こされた。
 なんのことか、すぐわかった。昨夜、ぼくの名義のクレジットカードが行方不明になっていることに気がついて、ひと騒ぎあった。そのカードをみつけてくれたのだ。
 でかした! 朝いちばんの朗報である。
「ほら、ね」
 そういって、カミさんが差し出したのは、ぼくの免許証入れ。
「どうして、こんなところに(カードを)入れたの?」
 そういわれて、ああ、そうだったと一部始終をおもいだした。
 3日前のこと、車で買い物に出かけたとき、カードだけあればいいやと思い、財布から抜きとって、免許証入れに移したのだった。その記憶がすっぽりなくなっていた。
 ああ、ボケてきたなぁ。
 こんなことがやたら多くなってきた。人の顔も、名前も、ついさっきメガネを置いた場所も、あれっ、だれだっけ? どこだっけ? 毎日そんなことばかりだ。
 それにしても、カミさんの探索力はすごい。どうして免許証が怪しいと目をつけたのか、不思議で仕方がない。その理由を本人に聞いてみた。
「まず、机のまわりを調べたの。それから机の上に置いてある収納ケースの引き出しを開けて、一つひとつをみたの。財布のなかもね」
 ふんふん、そこまでは、ぼくも何度もやった。
「そしたら免許証入れがあったの。黒い皮製でしょ、あれっ、これって財布に似ているよね。もしかしたらとおもって開いてみたら、やっぱり、あったのよね」
 免許証入れをみたとたん、ピンときたという。このへんはぼくの想像力を超えている。カミさんの眼力、オソルベシ。
 これまでも、何度もこんなことがあった。
「免許証がなくなったとか、通帳が消えたとか、部屋のカギがどこかへ行ったとか、自転車のカギとか。わたしが探しだしたのは、数知れずだからね」
 聞けば、このクレジットカードのことが気になって、昨夜はろくに眠っていないという。そんなに気にしていたのか。絶対にみつけなければという危機感も、集中力も、ぼくより何枚も上手なのだ。
 マコトニ、ゴメイワクヲ、オカケシマシタ。スミマセン。
 それとこれとは直接、結びつかないが、カミさんはパトカーがサイレンを鳴らしながら近づいて来ると、すぐに窓ぎわに走り寄って、どうした、何が起きたんだと外をみる癖がある。夜中でも起き上がって、カーテンを少し開けて、しばらく暗い外の様子をうかがう。パトカーが停車して、赤いランプがクルクルまわっていると、ベランダに出て、くぎづけになる。
 彼女は洗濯物を鼻に当てて、クンクン匂いを嗅ぐ癖もある。「このタオル、いくら洗っても、臭いが消えなくなったから、もう廃止しようかな」などと言っているが、待てよ、あの行動は警察犬と同じではないか。
 うーん、どうやら事件が好きらしい。カミさんの並みはずれた探索能力は、行方不明事件をなんとか解決したい、嗅覚でも見逃さないぞという執念のなせる技なのかもしれない。
 所帯をもって40年あまり。家のなかに隠れポリスがいた。いまごろになって、ようやく気がついた。

■今年も、北の国へ帰りそびれたコガモたちがいる。これから暑くて、ながい夏がくる。おい、死ぬなよ。仲間たちが帰って来るまで、元気でいろよ。

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