自民党総裁選を「鳥の眼」でみる2024年09月04日 17時22分

 政界最大のイベント・自民党の総裁選がいまいち盛り上がらない。現時点で立候補を口にしたのは12人もいるのだが、人々の眼には「多士済々の天下取りの戦い」と映る以前に、政治家たちはどいつもこいつも信用できん、という不信感があるのだろう。
 後述するように、このことはブーメランのように戻って来て、ぼくたち自身に跳ね返ってくる。そこで総裁選と政治家たちの移り変わりを上空から「鳥の眼」で眺めてみたい。と言っても、ぼくのごく限られた狭い視界なのだが。
 時計の針を70年代に巻き戻す。
 週刊誌の記者をしていたとき、総裁選がらみの取材を何度もした。
 有名な三角大福中がいた。大平派、田中派の大番頭で、「双生児」とも言われていた鈴木善幸と二階堂進のコンビも健在だった。
 早くから注目されていた宮澤喜一、竹下登、安倍晋太郎、中川一郎、渡辺美智雄などのニューリーダーたち。そして、どこの派閥にも財界の論客たちが目をかけていたプリンスとか、ホープと呼ばれる将来の首相候補がいた。
 実業の社会もそうで、経験豊富な経営者が海のものとも、山のものともわからない若手をかわいがって育てる風土があった。ソフトバングの孫正義も、ユニクロの柳井正もこのプロセスを踏んでいる。
 失礼だが、当時に比べれば、政治家も経済人もずいぶん軽くなって小粒になったものだとおもう。メディアも無難な解説調の言いまわしに終始して、かつてほどの旺盛な批判精神が伝わってこない。
 思い出を美化するつもりはさらさらないが、ぼくたちのころなら、あの政治資金パーティーの裏金づくりの追及も、今度の総裁選のタイミングを逃さなかった。
「たぶん国会議員の決戦投票になる。決め手のひとつが裏金づくりで追い込まれたあいつらの票がどっちに動くかだ。それで時期政権の性格も決まってくる。次の総選挙の争点になるかもしれんな」
 こんなやりとりをして、別の切り口で追いかけていたとおもう。
 たとえば、「自民党総裁選の火薬庫。安倍派裏金議員5人組の逆襲がはじまった」といった感じの特集は、ごくふつうに編集会議で出てくる企画だった。
 行儀が悪いなぁと顔をしかめる向きもあるかもしれないが、一般読者よりも、当の政治家たちが飛びつくようにして読んでいたものだ。
 それだけ記者と政治家のあいだには、親しい仲にもいい意味の緊張感があった。政治家たちもこうした批判を受け入れて、若い記者を育てる懐の深さがあったとおもう。
 さて、いまはどうか。
 新聞や硬派の雑誌を読まない人々のあいだで人気がある政治家は、ズバリ、テレビ局がよろこぶ人。歴代首相のなかでは、たぶん小泉純一郎あたりが真っ先に浮かぶだろう。ひところなら、「あいつは軽いからなぁ」と見られがちだったタイプである。
 小泉もそうだったが、国会では自分の気に入らない意見にはいっさい耳を傾けず、まるで仇敵(かたき)のように切って捨てるリーダーが続いた。日本学術会議の良識のある人たちも、率直な意見を具申した優秀な官僚たちも、自分にとって目ざわりな存在は強権を使って次々に排除した。
 断絶と分断の社会である。そのすぐ隣に格差、貧困がある。
 まぁ、総大将が率先して、森友学園、加計学園、桜をみる会、旧統一教会とか、いろいろやっていたのだから示しのつくわけがない。
 言論の府、良識の府の看板が泣いている。
 それもこれも、いまから書くことが温床になっている。
 あの半藤利一さんが12前の終戦の日に著した『日本型リーダーはなぜ失敗するのか』にこんな文章がある。
 ―いまリーダーシップがやたらに論ぜられている、要求されているのです。この先の見えない、浮遊している国家を何とかキチッとしたものにしてほしい。そうした人材よ出でよ、いまこそ、いうわけです。でもそんなに簡単に織田信長や徳川家康が出てくるはずはありません。いまの日本にこれといったリーダーがいないのは、日本人そのものが劣化しているからだと思います。国民のレベルにふさわしいリーダーしか持てない、というのが歴史の原則であるからです―
 ……、……、……、
 ぐうの音も出ない。

■先日、テレビ局の番組制作の会社を経営している大学の後輩くんから、長いメールが届いた。以前、彼も籍を置いていた某民放キー局の有名な看板番組の実情を明かしたもので、とても紹介できない関係者の恥ずべき行為の数々が書かれている。
 正義感の強い男だから、よほど頭に来ているのだろう。日本人が劣化している事例はこんなところにもある。

■室見川の河畔を上流に向かって散歩した。日中はまだ暑いが、夕方ちかくはだいぶ涼しくなった。川は風の通り道でもある。下流の博多湾の方から、いい風が吹いている。

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