死ぬ予定はないからな2025年09月28日 16時49分

 明日は3週間ごとの外科の診断と化学療法の日。1週間前に受けたCT検査の結果説明もある。さらに糖尿病の診察も。これで朝からの1日がほとんど潰れる。そして、この1週間は、また副作用との闘いが待っている。
 負けてたまるか、とおもう。
 来月はぼくの誕生月。75歳に到達するのはほぼ間違いない。いつのころからか、75歳までは生きていたいなとおもうようになった。なんとか、そのひとつの山に登れそうだ。先日、電話をくれた友には、「年内に死ぬ予定はないからな」と笑わせてやった。
 じっと立ったままでいられずに、ふらつきそうになる脚元に不安はあるけれど、涼しくなってきたし、できるだけ外の空気を吸おうとおもっている。
 午前中、近くにあるブックオフに注文しておいた文庫本2冊を受け取りに行った。同社の物流システムで店舗に配送されるので、配達料金はゼロですむ。ありがたく利用している。
 店内に一歩入ると漫画のコーナーはすぐわかる。そこだけ立ち読みの人が群がっている。ぼくが足を運ぶ110円(税込み)の文庫のコーナーには、本を読みたいのではなく、別の目的の人がいるようだ。
 きょうも品切れのままの不自然な空間があちこちにあった。きっと、あれだ。数年前にその現場に出くわしたことがある。ネットで稼ぐ人たちの仕業(しわざ)だ。
 ある日、たぶん60歳過ぎの読書とは縁のなさそうな夫婦連れがいた。ふたりの動きはふつうではなかった。スマホを片手に本棚の前を移動しながら、手にした本を1冊、1冊、ネットで検索していた。
 カゴのなかには、こうして選別した文庫本が何十冊もあった。自分たちで読むわけがない。そうこうしているうちに、「この本は売れるかなぁ」と相談している声が聞こえた。
 店側が防御策を打って、この小遣い稼ぎはしばらく鳴りをひそめていたが、どうやら復活したらしい。そうせざるを得ない人がいる、ということか。
 こうして商品を仕入れても、肝心のユーザーは、本を読まない人が増えている。こんなことをしても、そうそう思惑どおりにはいかないだろう。期待がはずれて、在庫の山の行きつく先はブックオフに持ち込んで買いとってもらうしかない。
 ぼくの経験では、1冊110円で買った30冊ほどの文庫本の買い取り価格は、「えーっ、たったのこれだけ」だった。同じ本はあふれ返っているのだ。安くても仕方がない。商売は塩っ辛いのだ。
 見たところ、店の方は以前のように防御策を打つ気配はなさそうである。もしかしたら、売上が頭打ちで、一度に大量買いするお客様は大歓迎ですと、これまでの方針を転換したのだろうか。
 よほどのことがない限り、110円の文庫本しか買わなくなったぼくは、すっぽり空いた棚を前にして、頭も、脚元もふらふらするのを棚に手をついて倒れないように支えながら、暮らしにくくなってしまったこの世のなかを、なんとか生きて行こうとしている人たちの切実なドラマを感じていた。

■いつもの団地の花壇。ピンクの花・ガウラは、ここの花を見るのがたのしみという女性が、「ぜひ、植えてください」と切りとった細い枝先を持って来てくれたもの。カミさんは枯れないように、ベランダで挿し木にして育てた。